片倉真理の台湾探見

日々の取材体験や日常の出来事を綴りながら、台湾の魅力を分かち合いたいと思います。

クレープで生きる勇気を与える趙叔叔。

先日、版画家の楊忠銘さんに誘われ、

「 324版畫工作房 」で行われた「分享會」に参加してきました。


「分享會」とは、自分の体験や知識などを他人とシェアする集まりを意味します。

 

今回の話し手は「趙叔叔小舖」の趙鍵斌さん。

さんは10数年にわたりクレープ屋台の黃仁鴻さんと一緒に、

各地の孤児院や監獄、介護施設、過疎地の学校などを巡り、

様々な問題を抱えている人たちに寄り添い、励ます活動をされてきました。

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仕事の傍ら、今も月に二回ほどボランティア活動をされているそうですが、

現地で知り合った子供や大人たちの中にはさんとの出会いから

生きていく力をもらい、自暴自棄にならずに人生を歩んでいく方も少なくないそうです。


中でも印象的だったのは311の時の話です。この時には福島や宮城などの被災地を慰問。アメリカから出張で戻ってきたばかりでしたが、ニュースを見て、居ても立っても居られなくなり、すぐに準備を始め、3回にわたって訪れたそうです。

 

忘れられないのは、気仙沼で出会った両親を亡くした幼い少年のことだそうです。少年はクレープ屋台に来た時、自分の分だけでなく、両親の分もほしいとお願いしたのですが、両親が見当たらないので不思議に思って尋ねると、「お父さん、お母さんは海の中いる」と答えたとのこと。

少年は以前、親から自分たちを見失うことがあれば両手を振るように言われており、その言葉通り海辺へ行って手を振っていたそうです。その日、さんは一緒に海辺へ行き、手を振ったそうですが、もちろん両親は戻ってきません。
海辺まで行く際、さんは少年に台湾について聞かれ、あれこれおしゃべりしたそうです。二人で海を見ながら、少年は「もしかしたらお父さん、お母さんは台湾にいるのかもね」と一言語ったそうです。 (ちなみに、さんは日本に留学していたことがあり、日本語がとても上手です)

 

その後、仕事で大阪へ行った時には、乗り合わせたタクシーで不思議な体験をされています。運転手さんがたまたま腕の裾を上げたところ、見覚えのある数珠が目に入ったそうです。聞けば福島にいる母親が息子を心配して送ってきたとのこと。


そう、それはまさしくさんが以前、福島の避難所でプレゼントとして人々に配ったものでした。「まさかここで送り主に出会えるとは!」と運転手さんは驚き、泣きながら感謝の言葉を述べたそうです。

 

まるで映画のような奇跡の出会いなのですが、この話を聞いた楊さんが描いた絵がこちらです。

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楊さんはさんが本を出版する際に挿絵を描いたり、さんが施設や学校で配る干しブドウのパッケージの絵を描いたりもしています。この干しブドウは栄養価の高いおやつを食べてほしいとみんなに配っているそうです。

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311の際には義援金だけでなく、台湾からは多くの励ましの言葉が送られました。中には実際に被災地へボランティアへ行った方も少なくありません。私はさんのこういった活動を初めて知ったのですが、本当にたくさんの方が日本を、被災地を応援してくれていたのだと改めて思いました。

 

「なぜこういった活動を始めるようになったのですか」と尋ねた際、さんは「自分が親からもらった愛情を多くの人たちに分け与えたい」とおっしゃっていました。台湾の人たちはボランティア精神に溢れている方たちが多いのですが、このように自分が受け取った愛を誰かに送る「恩送りの精神」がベースにある方も少なくありません。私も台湾で受け取った愛や恩を誰かに返せるように見習いたいものです。

 

今回企画してくださった「 324版畫工作房 」の楊さんは、コロナ禍の生活の中で「感じたことをそのまま作品で表現したい」と強く思うようになり、版画教室の生徒さんたちと「体験をシェアする」ようになったそうです。今回も版画教室のみなさんと一緒にお話を聞きましたが、「受け取った体験をそれぞれの人たちがもつツールで表現していくようになれば」とおっしゃっていました。ツールは絵でも文でもおしゃべりでも何でもいいそうです。

 

一緒に参加した日本人の友人は「社会貢献とシェア精神にとても台湾らしさを感じる」

と言っていましたが、まさしく私も同意見で、この二つは台湾社会を構成する重要な要素だと日々感じています。

 

中には「 324版畫工作房 」へ行かれたことがある方もいるかもしれませんが、昨年からイギリス仕込みのおいしいスコーンも食べられるようになりました。ぜひ楊さんの温かい作品を見に、そしておいしいスコーンを食べに出かけてみてください。

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趙叔叔小舖
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324版畫工作房

太原路97巷16號 

每週水金土13:30~18:30

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