生まれ変わる阿里山森林鉄道
阿里山の過去と未来を繋ぎ、デザインの力を加えたイベント「阿里山軸帶重塑行動」の記者会見に参加しました。
台湾を代表する観光路線、阿里山森林鉄道。度重なる災害の影響により、現在は海抜1400メートルにある奮起湖までしか運行されていません。しかし2023年の全線開通を目指し、最近は台湾の優れたデザイナーや専門家とタッグを組み、様々なリニューアルが計画されています。今回はその第一回目の成果発表会でした。
会場は日本統治時代に東洋一の規模を誇ったという「嘉義製材所」。
入り口の動力室の展示は「記憶.阿里山」がテーマとなっています。この建物に入った瞬間から森の香りに包まれ、小鳥のさえずりが聴こえます。真っ暗な空間の中で光るポールは樹木のように見え、五感で阿里山の森を体感できるようになっています。
各ポールでは阿里山の百年にわたる歴史や暮らし、自然についての説明があります。日本統治時代の阿里山の集落やそこで暮らしていた人々の話なども取り上げられています。この展示を手がけているのは<築點設計>の鍾秉宏氏と学者の黃貞燕氏です。
会場では<築點設計>が開発したグッズも販売。阿里山の山々をモチーフにしたディフューザーや霧の森をイメージした香水、阿里山産の金萱茶などがあります。
製材所の奥には戦前に事務所として建てられた木造家屋があります。今回のイベントでは入り口に鳥居をイメージしたゲートが設置されていました。
ここの展示は「百年鳴森」がテーマとなっています。阿里山森林鉄路の百年に渡る歴史を紹介しており、列車の部品など貴重な文物が展示されています。こちらのキュレーターは鉄道専門家の古庭維氏です。
百年前の蒸気機関車のポンプに水を入れ、動く様子も見せてくれます。
また、展示室では阿里山森林鉄路の新しいロゴも紹介。これは阿里山森林鉄路の車窓から見える変化していく山々が表現されています。森林鉄路が森を囲むようにデザインされており、「自然生態を大切に守っていく」という思いが込められています。デザインは<囍樹設計>の王芝齡氏が手がけています。
そして、今回の目玉とも言えるのが、リニューアル塗装の「栩悅號」の機関車!各方面の専門家と話し合いを重ね、いくつかのプランの中から最終的に選ばれたのは<築點設計>の鍾秉宏氏が手がけたものでした。台湾特有種の鳥「アリサンヒタキ」からインスピレーションを得ており、外側は雄の青色、客車内は雌の模様とベージュ色となっています(客車は後日お披露目)。2022年春先から運用されていくとのことで楽しみですね!
歴代の車両も展示されています(右の白いのがリニューアル塗装の車両)。
さらに今回は訪れることはできませんでしたが、奮起湖の駅周辺の景観も整備されています。こちらは<太研規劃>の呉書原氏が手がけており、従来の自然景観と奮起湖の素朴な風情を尊重し、「できるだけデザインを加えない」という方向で進められています。駅に植えた植物も阿里山の植物生態学者である陳玉峯氏との話し合いで決めたとのことです。
今後は竹崎や神山、祝山の駅も整備されていくことで、2023年に向けて着々とリニューアル準備が進められています。「阿里山林業鉄路と文化遺産管理処」の処長である黄妙修氏は「安全を第一に、景観整備を進めていく」ことを強調されていました。
今回のプロジェクトは阿里山森林鉄道の方やデザイナー、専門家たちは上下関係なく、フラットな立場で話し合いが進められたとのこと。式典でもステージなどは設けず、和気あいあいと親しみを感じるスタイルだったのが印象的でした。阿里山森林鉄道の経営母体である林務局と言えば、どちらかと言えば保守的なイメージがありますが、新しい風が吹き込まれている気がします。
豊かな森と幻想的な雲海、そして世界に誇る森林鉄道。阿里山は観光資源に恵まれた場所ですが、こうした試みにより今後さらに魅力的なスポットに生まれ変わっていくことでしょう。
最後に、今回のイベントのお土産をご紹介。阿里山の食材を用いたパンと阿里山森林鉄道のロゴの形をしたクッキー、そして日本酒(クッキー以外は残念ながら非売品)。パンは嘉義のベーカリー「穂悦」のもので、阿里山の特産品である高山茶や生姜、ワサビのほか、阿里山に暮らすツオウ族の人たちの食をイメージした塩漬け豚肉などが用いられています。
日本酒は、戦時中に阿里山の二萬平に酒工場が疎開したことがあり、これを記念したものです。今後は地元のお米や水を用いたお酒を作る予定だそうです。
こちらの記念バッジ。ぜひ商品化してもらいたいものです。
この展示会は2022年末まで開催される予定ですので、嘉義に寄る機会がありましたらぜひ覗いてみてください。
<嘉義製材所>
嘉義市東區林森西路4號
9:00~17:00
月火休園